なしくずし

なしくずし

秋の香りも甘い瑞々しさに鼻先引っ掛けられればこそ、
目を瞑りても間違いなく山と詰まれる果実に辿り着け、
見るからに詰まれた梨は水分甘味たっぷりとして、
そこに山がある限り登るべしとて、攀じ登りたるはなまるの、
人は石垣にてもなるべきもや、扨も梨の実には困難至極にて、
糅てて加えて果実の匂いに迷妄たりて、登山の者の足取りも蹣跚たれば、
春は曙、根雪も解けた雪の山にて拍手ひとつ、大きく打つと一般に、
ひとつが零れてまたひとつ、忽ち失う釣り合いの、梨の雪崩と成りて散る、
これが本当のなしくずし、とはあまりの直截とて申し開く余地も無く、
如何かご寛恕願い上げ奉るは作者の勝手、
憫然たるは八百屋の亭主とて、流石に普段は肝の据わるとも、
飯の種、商売品が雪崩を打ちて市場構内に転がり散らばり、
後は野となれ山の散るとて平たく成り行く様を、振返つや否や目にすれば、
金勘定に冷静に弾くべき算盤球も、枠から飛び出す程に強く指の撥ね上がる、
憐れ、八百屋の明日の飯は如何にせん。(2006/9/4)